「おはよう、エドガー。気分はどうかしら?」
 爽やかな朝に似つかわしい明るい声に起こされて、エドガーは部屋に入り込んでくる光の眩しさに二、三度瞬きをした。首の後ろで簡単に一つにまとめただけの薄い金髪がさらさらと流れて、エドガーの視界を横切っていく。
 いつの間にか眠っていて、いつの間にか朝になっていたことにエドガーは少し驚いていた。カールトン宅に来てからというもの、ろくに眠れない夜が続いていたのに。
 まさかハーブのせいだろうかと枕元を見るが、ただの偶然だろうと思い直した。体調は少しずつ回復しているのだから、きっと悪い夢見も治ってきているのだ。ハーブ一つで安眠できるなんて、自分はそんな単純ではないはずだ。
 眉をひそめて飾り気も何もない葉っぱを見ていると、あら、という笑みを含んだ声が降ってきた。
「リディアが来たのね? ごめんなさいね、見栄えが悪くて。あの子ったら、おまじないのことばかり気にして、他のことまで気が回らなかったのね」
 リディアというのが少女の名前だということを思い出しながら、エドガーはちらりとカールトン夫人に目を向けた。
「……おまじない?」
「エドガーが、早くよくなりますように、って」
 効いたかしら? と柔らかく微笑むその顔が何となく癪で、ふいと顔を逸らす。そんな迷信が効いてたまるか。
 エドガーが憮然とした表情でいることには無頓着に、夫人はほっそりとした手を彼の額にあてがった。
「よかった、熱は引いたみたいね。さあ、じゃあ火傷の具合を見せてちょうだい。身体を拭いたら、朝食にしましょう」
 他人に世話をされるのは慣れている。身体のあちこちがまだ鈍く痛むこともあり、エドガーは逆らわずに夫人の手当てを受けた。まだ赤く痕が残っている火傷にひんやりとした薬を塗られ、全身を清潔な水を浸したリネンで清められる。替えの服に着替えると、幾分すっきりした気持ちになった。ずっと食欲がなかったけれど、今朝は朝食を食べてもいいような気がする。
「ミセス・カールトン」
「アウローラでいいのよ、エドガー」
このやりとりもそろそろ定例化してきた。エドガーはいつものように夫人の言葉を無視し、淡々と告げる。
「いい加減に教えていただけませんか。あの火事は何だったのか。あの後屋敷は、父と母はどうなったのか。どうして僕がここにいるのか」
「何度も言っているわ、エドガー。あたしには詳しいことはわからないの。フレデリックが帰ってくるまで、身体を休めてお待ちなさいな」
「けれど、僕よりは多くのことを知っているはずだ」
「あたしにわかるのは、フレデリックが突然男の子を連れてきたこと。その子が何か厄介な事情を抱えていそうなこと。それから、誰かが面倒を見なければ自分の世話をするのもままならないほど、その子が弱っているということよ」


「夜明けに見る光」(えせ兄妹)より